この記事ではJPモルガンについて解説していきます。
JPモルガン・チェースの特徴・歴史
JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(JPMorgan Chaase & Co.)は米国ニューヨークに本社を構える世界有数の金融グループです。投資銀行、商業銀行、アセット・マネジメントなど幅広い事業を展開しています。
2000年にチェース・マンハッタン(ケミカル)とJPモルガンが経営統合しJPモルガン・チェースとなりました。
グローバルに展開する投資銀行業務・商業銀行業務は「JPモルガン」、米国内で展開する中小企業・個人向けの商業銀行業務は「チェース」ブランドで営んでいます。
JPモルガン・チェースの歴史
JPモルガン・チェースの歴史は古く、ケミカルは1823年に創業された化学工業会社が前身であり、翌1824年に金融業務に参入しています。またJPモルガンも1851年に設立されたジョージ・ピーボディ商会がルーツとなっています。
第一世界大戦が終了した1920年代になると米国は未曽有の好景気となり、欧州列強と比較して未だ新興国であったアメリカは一気に資本主義大国へと成長していきます。ロックフェラー、デュポン、フォードなどの巨大財閥がこの頃に誕生し、JPモルガンは製紙や電気事業への投資で事業を一気に拡大します。
1929年の世界恐慌によって、グラス・スティーガル法が制定され、商業銀行と投資銀行は分離されることとなり、JPモルガンは商業銀行となり、投資銀行部門はその後にモルガン・スタンレーとなります。
1999年のグラム・リーチ・プライリー法により銀行・証券の分離が撤廃され、再び投資銀行となっています。
- リスクの高い投資銀行業務と健全性が求められる預金受入や信用貸出を行う商業銀行業務を切り離すことを目的に1933年に制定された米国の法律
- 1999年のグラム・リーチ・プライリー法により廃止された
なお、JPモルガンは米国内において商業銀行業務を展開しており、個人でも銀行口座を開くことができます。「Chase」ブランドのATMを街中で見たことがある人もいると思います。

JPモルガン・チェースのビジネス・セグメント
JPモルガン・チェースは以下の4つの主要ビジネス・セグメントに従って事業を展開しています。
JPMorganChase &CCo. 2022 Form 10-K
・Consumer &Community Banking
Consumer &Community Banking(CCB)は、個人やスモール・ビジネスに対して銀行支店網、ATM、デジタル、電話を通じたサービスを提供しています。住宅ローンやクレジットカード、自動車ローンなども幅広く取り扱っています。
・Corporate &Investment Bank
Corporate &Investment Bank(CIB)は、企業、投資家、金融機関、政府、自治体などのグローバルな顧客基盤に対して、投資銀行業務、マーケットメイク、プライム・ブローカレッジ、貸付、財務・資金管理サービスを提供しています。
Bankingは事業・財務戦略や資本構成、株式・債券の資金調達を含むフルレンジの投資銀行業務を行っています。またローンのオリジネーション・シンジケーションや資金決済業務も行っています。
Markets & Securities Servicesはグローバルなマーケット・メイカーとして様々なプロダクトやリスク管理ソリューションを提供し、またグローバルなカストディアンとしてカストディ、資金管理サービス、証券管理サービスをアセットマネージャー、保険会社、公的ファンド、プライベートファンドなどに対して提供しています。
・Commercial Banking
Commercial Bankingは貸付、決済、投資銀行、資産運用を含む包括的な金融サービスを提供しています。顧客セグメントは以下の3つのセグメントに分かれています。
- Middle Market Banking・・・中小企業、地元自治体、NPOなど
- Corporate Client Banking・・・中堅企業
- Commercial Real Estate Banking.・・・マルチファミリー、オフィス、リテール、産業向け不動産の投資家、開発業者、オーナーなど
・Asset &Wealth Management
Asset &Wealth Managementは4兆ドルの顧客資産を管理しており、グローバルで見ても最大級の規模を誇ります。
Asset Managementは株式、債券、オルターナティブ、マネー・マーケット・ファンドなどのマルチアセット投資サービスを機関投資家、個人投資家に提供しています。
Global Private Bankは退職金運用、ブローカレッジ、カストディ、不動産活用、貸付、預金、投資管理などを富裕層に対して提供しています。
日本におけるJPモルガン
日本においてJPモルガンは以下4つのエンティティを通じて事業・サービスを展開しています。
エンティティ | 事業内容 |
---|---|
JPモルガン証券株式会社 | 投資銀行 |
JPモルガン・チェース銀行東京支店 | 商業銀行 |
JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社 | 資産運用 |
JPモルガン・マンサール投信株式会社 | 投資信託 |
米国では個人向け銀行業務を行っていますが、日本においては法人取引に特化しています。また、投資銀行業務および商業銀行業務のいずれにおいても、クロスボーダー取引や案件に強いのが特徴です。
日本企業は今や主要先進国だけでなく、様々な新興国で事業を行っています。
商業銀行業務の例を挙げてみましょう。
アフリカのある国の現地子会社に至急で資金を送金したいが、3日以内に入金が完了できるか
このような急な顧客からの依頼にもグローバルなネットワークを活用して解決していきます。
クロスボーダー取引はグローバルに支店網を持つ米系金融機関に強みがあります。投資銀行業務だけでなく商業銀行業務の観点からも日本企業を囲い込んでいる点がグループとしてのJPモルガンの特徴です。
JPモルガン投資銀行部門の強み
ここではJPモルガン証券投資銀行部門(IBD)の強みについて解説していきます。
圧倒的なブランド・信用力・資金力
JPモルガンは総資産、収益力、時価総額で世界屈指の規模を誇り、米銀の中でも勝ち組であり王者とも称されます。
金融機関にとって財務の健全性は信用力の源泉であり、案件や取引を依頼する顧客企業から見ても安心感があります。
2023年3月のシリコンバレーバンクに破綻以降、米国地銀の経営問題がクローズアップされましたが、3行目の破綻となったファースト・リパブリックバンクの預金とほぼすべての資産をJPモルガン・チェースが継承することとなりました。
JPモルガンは、全米の預金量に占める割合が10%を上回っているため、規制によって本来であれば他の銀行を買収することはできないのですが、今回は米連邦預金保険公社(FDIC)が特例として認めることになったようです。
JPモルガンは今後もアメリカ資本主義をけん引していく立場であり、米国金融業界の勝ち組であると言えます。
M&Aを起点とした総合提案力
JPモルガンは特にクロスボーダーの大型案件のM&Aを得意にしています。
国内で完結するM&Aではなく、国境を越えるクロスボーダーのM&Aは金額規模が大きくなる傾向にあります。
M&Aそのもので手数料を獲得するのと同時に、相手先を買収する資金を用意するファイナンスでもJPモルガン証券、JPモルガン・チェース銀行が一体となって提案できる点が強みです。
例えば、M&Aが成立したら、買収資金を一時的に借りるためにブリッジローン(通常は1年未満)を組みます。このブリッジローンを銀行が提供します。
2018年に武田薬品工業がShire社買収の際に発表したニュースリリースを見てみましょう。
(以下、抜粋)
1. ブリッジクレジット契約の概要
会社ニュースリリース Shire社買収に係るブリッジローン契約の締結に関するお知らせ (takeda.com)
(a) 借入人 武田薬品 (b) エージェント JP Morgan Chase Bank, N.A. (c) 貸付人 JP Morgan Chase Bank, N.A
株式会社三井住友銀行
株式会社三菱UFJ銀行(d) 契約締結日 2018年5月8日 (e) 総借入限度額 308.5億米国ドル
(内訳)
第1トランシェ153.5億米ドル
第2トランシェ:45億米ドル
第3トランシェ:75億米ドル
第4トランシェ:35億米ドル(f) 利率 調整LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)+当社の信用補完されていない無担保長期社債の格付けを基にしたスプレッド) (g) 資金使途 Shire社買収の対価及びその他関連する費用等の支払い、並びにShire社及びその子会社の一定の既存債務の借換え (h) 最終返済日 第1トランシェ乃至第3トランシェ:借入の実行日から364日後の日
第4トランシェ:借入の実行日から90日後の日(i) 担保 なし (j) 保証 なし (k) 準拠法 ニューヨーク州法
その後、時期を見てブリッジローンを返済するためのエクイティファイナンスあるいはデットファイナンスを実行します。ここではJPモルガン証券が活躍しています。
このように、M&A案件の提案に加えて、買収資金のファイナンスについてもパッケージで提案できる点はJPモルガンの強みと言えます。
JPモルガン証券 IBDの年収・給料・激務度
JPモルガン証券の投資銀行部門は業界でもトップクラスの待遇であると思われます。
所属する部署のパフォーマンスにも左右されますが、業界の中で比べて給与水準が劣るということはないでしょう。
略称 | タイトル | 年齢イメージ | ベース給 | インセンティブ給 |
---|---|---|---|---|
AN | アナリスト | 22~27歳 | 600~800万円 | 300~500万円 |
AS | アソシエイト | 25~35歳 | 1,000~1,200万円 | 800~1,000万円 |
VP | バイスプレジデント | 28~40歳 | 1,300~1,500万円 | 1,300~1,800万円 |
D | ディレクター | 32~45歳 | 2,000万円 | 2,000万円~ |
MD | マネージングディレクター | 35~50歳 | 2,000万円~ | 3,000万円~ |
ただしその分、仕事内容は激務であると言えます。在宅勤務も併用しながらですが、ワークライフバランスを維持することは難しいのが実情です。
JPモルガンのカルチャー
「First-class business in a first-class way(一流のビジネスを一流の方法で実践する)」
これはJPモルガンの理念ですが、洗練されてスマートなJPモルガンのイメージを具現化している言葉と思います。
また、新卒を大事にするカルチャーがあり、新卒入社の定着率が高いのも特徴と言えます。
JPモルガンの難易度
外資系投資銀行すべてに言えますが、その中でもJPモルガンの入社の難易度は極めて高いと言えます。
入社に際しては特にJPモルガンのカルチャーやチームへのフィット感を重視しているようであり、事前の対策は必須です。
ES・面接情報を見たい場合はこちら。
米系投資銀行の一覧はこちら。