投資銀行業務というとM&Aアドバイザリーを思い浮かべる人は多く、IBDの中でも花形部署です
M&Aアドバイザリー業務の仕事内容についてざっくり説明した上でどのような志望動機が受けるのかを解説します
M&Aアドバイザリー業務の仕事内容とは
M&A、企業買収の実務プロセスはざっくり以下の段階に分けられます
- オリジネーション・フェーズ:
- M&A戦略の立案、買収対象候補の発掘・選定
- エグゼキューション・フェーズ①:
- FAの選定、買収対象候補企業へのアプローチ、企業価値評価、買収・ファイナンス・スキーム、スケジュールの検討
- エグゼキューション・フェーズ②:
- 価格交渉、基本合意、デューデリジェンス、最終契約
- ポストM&Aフェーズ:
- PMI(Post Merger Acquisition)、経営統合の準備・実行
投資銀行では主にカバレッジバンカーが1を担当します。その後、M&Aバンカーが2、3を担当します
4については本来はここからが本番であり、買収した会社との間でシナジーを発揮するところですが、このフェーズは投資銀行は関与しません。場合によってはコンサルが入る部分かもしれません
仮の話ですが、統合がうまくいかなくて数年後に買収した会社を売却する場合もあり、再び投資銀行にはビジネス機会になります
若手M&Aバンカーが業務を通じて身につく知識
なぜM&Aを志すのか、志望動機に直結するポイントと思います。M&Aアドバイザリー業務にジュニア・バンカーとして従事することで以下の実務経験や知識が身に付きます
- 会計の基礎知識(バランスシート、損益計算書、キャッシュフロー表)
- 会計の応用知識(企業結合・連結、税効果会計、退職金給付等)
- 企業価値の算出・評価方法(コーポレートファイナンスの知識)
- 日本の法令規制(会社法、金融商品取引法、東証規則)および買収先相手国の法令・規制
- 税務の知識(特に組織再編税制、繰越欠損金)
M&Aのジュニアバンカーは買収企業と被買収企業の財務諸表(バランスシート、損益計算書、キャッシュフロー表)と買収後の統合された一つの企業の財務諸表をエクセルシート上で再現します
たとえば買収企業のネットワークを活用して被買収企業の商品を販売するので、売り上げが〇%だけ増えることが想定されます
また2社が完全に合併し統合される場合は、人事部などの管理系の業務を統合することができれば、企業組織を運営するコストも削減でき、シナジーがうまれます
このように、買収後の財務上のインパクトをシミュレーションするのに、エクセルシート上でバランスシート、損益計算書、キャッシュフロー表を再現する必要があり、売り上げが〇%増えたら、経費が〇%削減出来たら、と計算をする前提となるモデルを作るのはジュニアバンカーの仕事です
そのため上記で記載した会計に関する基礎知識、応用知識は必須の項目となります
企業価値の算出・評価方法(コーポレートファイナンスの知識)
M&Aの実務で使われるValuation(企業価値評価)の方法は主に以下があります
- マーケット・アプローチ
- 市場株価法
- 類似会社比較法
- 類似取引比較法
- インカム・アプローチ
- DCF法
- コスト・アプローチ
- 純資産法(簿価・時価)
ざっくりと順に説明していきます
市場株価法
証券取引所で取引されている株価をベースに株式価値を算定する方法です
買収ターゲットが上場企業の場合に採用される最も一般的な手法であり、客観性も高いと考えられます。未上場の企業には使えない手法であり、また株価は少額の売買を前提とした価格であり、支配プレミアムを含んでない点には注意が必要です
類似会社比較法
買収ターゲットと類似する上場企業の株価に対する倍率(マルチプル)から、株式価値を算出する方法です
例えば、以下のように使います
EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)の〇倍が類似企業の株式価値となっているから、買収ターゲットの企業についてもEBITDAの〇倍くらいが株式価値と推定される
類似会社取引法
類似する過去のM&A取引において、財務数値の何倍(マルチプル)で類似会社が取引されたのかを計算し、マルチプルを使って株式価値を算出する方法です
類似会社比較法と似ていますが、類似会社の市場株価などではなく、類似取引の取引金額を参照してマルチプルを計算します
DCF法
DCF(Discount Cash Flow)法は、将来に予想されるキャッシュフローを割引率を用いて現在価値に引き直して、株式価値を算定する手法です
多くの前提条件を置く必要があるため、恣意性が高く客観性が低くなりますが、買収後のシナジーの発生などを織り込んだ計算などができるため、よく利用されています
細かく勉強するには書籍がよいと思いますが、ざっくり理解したい場合は下記リンクを参考にしてみてください(英語です)
純資産法
純資産法はバランスシート(貸借対照表)の純資産の数値を株式価値とする手法です
簿価の場合は単にBSの株主資本の数値となります。時価の場合はDD(デューデリジェンス)の結果を反映するなどして、時価での株式価値を求めます
ざっくり説明すると、
デューデリジェンスとは、取引や投資に際して企業や投資先の価値やリスクなどを調査することを意味します
例えば、中古車を買いに行く場合、調子が悪いところがないか、傷などがないかなどを購入前にチェックすると思います。そのような事前チェックをデューデリジェンスと呼んでいます
仮に傷があった場合に値引きを交渉する、あるいは購入を取りやめたりするのは、M&Aにおいても同様です
法令規制と税務の知識
法令・規制、税務については幅広く学ぶ必要がありますが、まずは会社法が基本となります
会社法だけでも範囲は広く、法人としての株式会社、株主総会・取締役会・監査役会、増資・自己株式処分などの資金調達、組織再編(合併、分割、株式交換、株式移転)などがあります
また今回の買収がどのような税務上の影響をもたらすのかも、買収スキームごとに事前に比較検討したうえで、買収スキームを決定していく必要があります
このあたりは実際に案件が動き出すと外部のスペシャリスト(弁護士・会計士)がアサインされるので、弁護士・会計士とも協働して進めていくこととなります
シニアのM&Aバンカーに求められるもの
ジュニアのM&Aバンカーには、会計やコーポレートファイナンスの基礎知識が求められますが、シニアになってくるとソフトスキルも求められます
案件が困難に直面した場合でも社内・社外の関係者をまとめてプロジェクトを進めていくリーダシップやプロジェクトマネジメント、プレゼンテーション・交渉・海外を含めたコミュニケーションスキルなど知識などではないソフトなスキルが求められるようになります
M&Aアドバイザリーのやりがい・志望動機の例文
ざくっとM&Aアドバイザリーの仕事内容について説明してきました
やりがい・志望動機をまとめます
- 日本経済が成熟化を迎える中、成長力や収益力の強化、持続的発展を継続するために、M&Aを活用した事業の再構築は必要不可欠
- 国内市場は先細りしていく中、大手企業は海外市場に活路を見出す必要がある。中小企業は後継者不足に悩む中、M&Aニーズは強い
- クライアント企業は社運をかけてM&A案件に臨む。そのため高いプレッシャーの中で自己成長につなげられる
- M&Aアドバイザリー業務で一人前になるには少なくとも8~10年はかかる。生涯をかけて取り組むのに相応しい仕事
- 登る山が高ければ高いほどやりがいを感じる。モチベーションがあがる
- コーポレートファイナンスや法令・税務などのハードスキルに加えて、交渉力や人間力などのソフトスキルも求められる仕事であり、広範かつ実務的なスキルが身につくビジネスパーソンとして総合的な戦闘力が磨かれる仕事
参考にしてみてください
投資銀行だけではないM&Aアドバイザリー業務で活躍する場
投資銀行におけるM&Aアドバイザリー業務を中心に解説をしてきましたが、M&Aアドバイザリーに関われる機会は以下の通り投資銀行に限られず幅広いです
- 外資系投資銀行・外銀(米系、欧州系)
- 日系投資銀行(大手5社)
- 会計系事務所(Big4)
- 独立系アドバイザー
- M&A仲介業者
まとめ
M&Aアドバイザリー業務は極めて専門性が高く、やりがいの大きい仕事です。この分野で長く経験を積んでから事業会社にうつり、経営企画部や事業開発部などで投資銀行を含めた専門家の力を使って実際にM&Aを自分の手で行う事例もおおいです
それほど経験がものを言う世界であり、着実に経験とスキルを積み重ねていくことが求められる仕事と言えます