投資銀行への就職や転職を志す人にとって、日系と外資系の差は気になるところだと思います。給料の良さのイメージが先行する外資系証券会社に比べて日系の証券会社の実態はどうなのでしょうか?
実際の経験に基づき日系証券会社の特徴を解説します。
日系投資銀行はフルラインでサービスを提供するエリート組織
以下の日系証券は5大証券と呼ばれ、いずれもエリート集団です。
またSMBC日興証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は銀行系証券と呼ばれるのに対して、野村證券、大和証券は独立系と呼ばれたりします。
- 野村證券
- 大和証券
- SMBC日興証券
- みずほ証券
- 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
投資銀行部門(IBD)がありマーケット部門があることは日系も外資系も同じです。最大の違いはリテール部門の差でしょう。外銀で日本においてリテール網を持ち、個人投資家向けに株式や債券の販売を行っているところはありません。
ECMやDCMのプロダクトの提案において、リテール(個人投資家)への販売を狙った資金調達戦略は日系投資銀行だけにできる提案となります。フルラインで提供するサービス体制を整えているのが日系の強みです。
長い歴史に裏付けされた顧客基盤
日本の5大証券はいずれも日本において長い歴史があり脈々と引き継がれてきた顧客基盤があります。案件がとれるかどうかはさておき、日ごろのアクセスがなくて相手の担当者の連絡先すらわからないといったことはなく、ほとんどの顧客とは話ができるパイプはあります。
日系の金融機関において人事異動などで人が入れ替わったとしても、必ず引き継ぎが行われます。個人単位ではなく、組織単位での関係が引き継がれていくため、取引先とは強固な関係が構築されています。
またメインバンクや株式上場した時の主幹事証券との取引関係を重視する日本企業も少なくありません。四季報で個別企業を見てみると、右下の欄に【銀行】あるいは【証券】に金融機関名が書いてあります。これがメインバンクと主幹事証券です。
メインバンクである銀行は顧客企業と融資を含めた取引を行っており、銀行系の証券会社であるSMBC日興証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などは銀行が持つ顧客ネットワークにもアプローチすることができます。
また株式を上場した時の主幹事証券は銀行におけるメインバンクのように強固な取引関係を築いていることも多くあります。
日系証券では組織単位での強固な関係が維持される一方で、外資系証券では人の出入りも激しくどうしても組織単位での関係は弱くなりがちです。個人単位で関係を築くこともあり、〇〇MDはA社とべたべたで仕事をしているので、A社の案件をよくとってくる。ですが、そのMDの退社後はA社とは話もできなくなってしまったということが起きがちです。
顧客基盤がビジネスに影響を与えた事例について紹介したいと思います。
自分でも自信のある提案を行い、顧客より無事にマンデートをもらえたのですが、先方よりどうしても最大手の日系証券を入れたいとお願いされました
「最大手証券は顧客企業の株式上場時の主幹事証券であり、古くからの付き合いがある。役員レベルを含めて深い取引関係があり、4番手でいいので主幹事証券の一角にいれたい」
投資銀行の案件獲得は提案の中身や担当者の熱意できまることが基本ですが、担当者レベルではどうにもならない次元でビジネスが決まることもあります
人事異動・海外転勤
日系証券では人事異動があります。人事異動は日本固有の制度であり、証券会社に限った話ではなく、ひろく日本企業に見られている制度です。
目の前のことを一生懸命にやっていれば、本人の希望もある程度かなえてくれるのも日系のよいところでしょう。また本人の希望に加えて、適性にも配慮した人事異動もよく見られます。IBDに入ったものの、自分はPCに向かってプレゼン資料を作るのは向いてない。マーケット部門に移りたいといった希望も若いうちであれば希望が通ることもあるでしょう。
外銀では人事異動はありません。その道のプロとして生きていくことが求められます。日系と同様に若いうちであれば異動することもありえますが、今のところで良いパフォーマンスをあげているとしたら、普通は別の部署に異動することにインセンティブはなく、今の部署で評価された上でより高いボーナスをもらったほうがよいと考えるのが一般的です。異動もなくはないですが、今の部署でうまくいってないから教育的配慮で異動をさせることが多く、異動は外資系ではあまりよいサインではないことが一般的です。
海外転勤は日系投資銀行に勤める最大のメリットと言えます。M&A、ECM、DCMのいずれのプロダクトにおいてもクロスボーダーの案件を獲得することが日系投資銀行の目標となっており、クロスボーダーの案件で最大のライバルとなるのが、米系・欧州系を含めた外資系になります。
グローバル人材の育成はどこの日系証券も力をいれており、海外勤務はプロダクトでよりチャンスがあると思います。ニューヨーク、ロンドン、香港、シンガポールに加えて、BREXIT以降は日系金融機関は欧州大陸にも拠点を設けています。金融機関にもよりますが、パリ、アムステルダム、フランクフルトなどに拠点を設けている事例が多いです。
BREIXTが投資銀行に与えた影響
2016年6月23日の国民投票の結果、イギリスはEUから離脱することを選択しました。その結果、イギリスはEUではなくなり、EUの顧客に金融サービスを提供するにはEU域内に新たに営業拠点を持つ必要がうまれました。そのため、各金融機関はEUである欧州大陸内のパリ、アムステルダム、フランクフルトなどに拠点を設けました
ロンドンは英語が通じることに加え、教育を含めた住環境が整っているため金融ビジネスを行うには最適な場所でした。欧州大陸に新たな拠点・機能を作ることは簡単なことではなかったです
エリートを育てる教育・研修・評価の体制
日系は充実しているの一言に尽きます。社内外の幅広い教育研修制度が用意されています。証券アナリストなどの資格の取得から語学の勉強やプログラミングまであらゆることの勉強が可能であり、補助金や合格した場合の受験料のサポートなど様々な制度があります。海外や国内のビジネススクールへの留学制度もあります。
また評価についても人物を多面的に評価する仕組みがあります。単に知識やスキルがあり案件獲得や収益の達成に貢献したかだけでなく、チームへの貢献や後輩教育指導なども評価に含まれます。評価項目がたくさんありますが、すべてで満点を取るのは難しく、得意分野に絞って2-3つのとがった項目を伸ばしていけばよいのではないかと思います。
外資系でもチームプレーヤーであることは求められますが、やはり案件獲得や収益達成など目に見えるもので評価されます。後輩の教育指導を精力的に行ったからといって、評価があがりボーナスが増えるといったことは外資系ではないでしょう。
成長機会に富む案件数の多さ
顧客基盤の広い日系証券のほうが案件数が多く、成長の機会が多いのも特徴です。リフィニティブが発表している2022年第3四半期までの日本関連M&Aリーグテーブルを見てみましょう。ここでは10位までに絞り、案件額を案件数で割ることで、1案件あたりの平均額を付け加えました(出所:REFINITIV)。
2022年第3四半期日本関連M&Aリーグテーブル
順位 | アドバイザー | 案件額(億円) | 案件数 | 平均(億円) |
---|---|---|---|---|
1 | 三菱UFJMS | 34,092 | 28 | 1,218 |
2 | 野村 | 22,793 | 74 | 308 |
3 | 三井住友FG | 21,311 | 80 | 266 |
4 | UBS | 19,974 | 9 | 2,219 |
5 | みずほFG | 14,939 | 79 | 189 |
6 | ゴールドマン・サックス | 14,873 | 14 | 1,062 |
7 | BofAセキュリティーズ | 12,595 | 7 | 1,799 |
8 | デロイト | 7,744 | 91 | 85 |
9 | 大和証券グループ本社 | 6,804 | 35 | 194 |
10 | JPモルガン | 6,451 | 9 | 717 |
案件数は圧倒的に日系投資銀行が多いことがわかると思います。また1案件あたりの平均額を見てみると、一方で外銀は金額の大きい大型案件にフォーカスしていることがわかると思います。
激務に見合う年収
日系証券であっても最近は相応に年収で報いるようになってきています。外資系よりも給料を払うことはないですが、それなりに競争力のある待遇にしておかないと会社を辞めてしまう人も出てくるため、相応にインセンティブ付けをしています。
アナリスト、アソシエイトを順調にこなしていけば、30歳前にはバイスプレジデントに昇格となり、1.000万円の大台に到達するようなイメージです。投資銀行業界では人材争奪が激しいため、日系金融機関の中でも投資銀行部門やマーケット部門などの、いわゆる稼ぐことが期待されるフロントでは、特別な職務給や手当が支給されており、外資系との給与格差を埋めるようにしています。
日系証券では福利厚生が手厚いです。豊富な研修制度や住宅補助などがあるため、単純な給与の額面以上のメリットが日系投資銀行にはあります。
まとめ
日本を中心にキャリアを築いていくことを展望した場合、日系投資銀行で働くのか、外資系投資銀行で働くのか、どちらにも一長一短があると思います。優秀な人はどこにいっても優秀ではあると思うものの、キャリアの駆け出しのころは最初は何もできないため、人から教わる必要があります。
カルチャーの違いなども頭に入れて会社選びをする必要があると言えます。