2025年1月27日、中国AIのディープシーク(深度求索)が公開されると米国株式市場は大幅に下落し、米ドルは売られました。
特に、NVIDIAが時価総額で失った5890億ドル(約91兆円)は1日当たりの減少額では米国企業史上最大の下落額を記録しました。
米国のAI技術の優位性が揺らぐとの見方が背景ですが、今回のDeep Seekショックについてまとめます。
DeepSeekショックとは?
1月21日にトランプ米大統領が民間部門による人工知能(AI)インフラへの最大5,000億ドルの投資を発表しており、米国のAI開発における優位性は継続するものと受け止められていました。
ソフトバンクグループ、米オープンAI、米オラクルの3社が「スターゲート」と呼ぶ合弁事業を始める計画で、米国でデータセンターを建設し10万人以上の雇用が生まれるとトランプ米大統領は述べており、今後4年間で5,000億ドルを投資する計画で、このうち1,000億ドルの投資を直ちに開始する予定と発表されました。
その数日後に米国の優位性に対する見方が揺らぐことになります。
中国企業DeepSeekはDeepSeek R1をリリースし、米オープンAI並みに高性能である一方、開発コストはわずか560万ドルと伝わりました(ちなみに米GPT-4の訓練費用は1億ドル強)。
AI開発には巨額のコストがかかるため、後発組が競争に参入するには相当程度の追加的な費用が必要です。
高い参入障壁があることから米国のAI技術の優位性は揺らがないと思われていたため、今回のDeepSeekによるR1モデルのリリースは相当な衝撃を持って受け止められました。
DeepSeekショックについて、Bruce Mehlman’s Age of Disruptionが詳しく分析しています。
Open AIとDeepSeekの比較
今回のDeepSeekの発表について、1957年のソ連による人工衛星スプートニク1号になぞらえて、スプートニク・モーメントと呼ばれています。
スプートニク・モーメント

1957年10月4日、世界で初めてソビエト連邦が人工衛星の打ち上げに成功しました。人工衛星スプートニク1号は一定間隔で宇宙から電波を発し、日本でも受信されました。
ソビエトによる突然の発表は全世界に大きな衝撃を与えることとなり、NHKアーカイブスに当時のニュースが残されています。
この時のことが思い出されるくらい、今回のDeepSeekの発表はショックだったと言えます。
一方でスプートニクではなくトヨタ・モーメントだとの指摘もあります。
トヨタ・モーメント

今回のDeepSeekはスプートニクではなく米国の自動車業界が新興の日本の自動車に競争で負けた歴史の再来であり、トヨタ・モーメントと呼ぶのに相応しいとの指摘です。
スプートニクの事例は軍事的な分野において秘密主義で開発を進める敵対する政府に先を越された事例ですが、DeepSeekは完全に透明性のあるオープンソースの技術であり、政府ではない組織によって開発されました。
そのためトヨタ・モーメントと呼ばれるべきである。
米国の自動車産業が、日本の新興メーカーのほうがコストが安く性能の高い自動車を生産する能力が高いことに気づき、根本的に生産方法や計画、人材、マーケティングの戦略全般を見直す必要に気付いた瞬間(モーメント)です。
スプートニク・モーメントとトヨタ・モーメント
2つは似ているようで異なります。米国にとって大きな衝撃となった過去の2つのモーメントです。
スプートニク・モーメント | トヨタ・モーメント |
---|---|
政府主導の開発 | 民間企業による開発 |
秘密に包まれた技術 | オープン・ソース |
米国より先に行く技術 | 米国に追従する技術 |
基本的に軍事分野 | 基本的に非軍事分野 |
市場へのインパクトは限定的 | 市場の想定を覆す |
米国と中国の競争がAI開発をリード
AIが安価でどこでも誰でも使えるようになると一気に普及して生産性の向上に寄与すると見込まれています。
中国はトップティアのAI人材の輩出でおおよそ50%を占めているとのデータがあります。中国の活躍はAI開発に欠かせない状況と言えます。

ただしトップティアのAI人材が働いている国は引き続き米国がトップです。

生成AIの需要は今後も伸び続ける見込みであり、開発競争は今後も激しい状況が続く見込みです。

日本は生成AIの普及率では世界の最後方
日本における生成AIの活用は主要国よりも遅れている状況。個人の生成AIの利用経験は総務省の報告書(2024年6月)によると、9.1%に留まり、先進国の中でも圧倒的に低い割合となっている。

今後の日本の活躍が期待される状況です。
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